「福いいナー!をさがせ!」#02 田中彩愛さん
福いいネ!くんの相棒「福いいヌ!」は、福いいネ!なニオイが大好き。その鋭い嗅覚で、福井のまちにあふれる福いいネ!を探し出すのが大得意です。
福井には、思わず「福いいネ!」と声を上げたくなるような、すばらしい人たちがたくさんいます。みんな知ってる著名人だけでなく、中には、知る人ぞ知る逸材も!
そこで、福いいヌ!の鼻を頼りに、福井でがんばっている人、活躍している人を探し出し、皆さんに紹介していく新企画を始めました。題して、福いいナー!(=福いいネ!な人)をさがせ!
第二回は、田中彩愛さんを紹介します。
#02 田中彩愛さん
今年3月に、足羽川に架かる幸橋の北詰にオープンしたアクティビティ拠点施設「ヨリバ(YORIVER)」。その水上アクティビティ運営スタッフの一人として働く田中彩愛さんは、川を愛し、川の魅力と安全な楽しみ方を多くの人たちに伝えようとさまざまな活動をしている、福井の「川ガール」です。
人が集まる「寄り場(合流地点)」と「リバー(川)」をイメージして「ヨリバ」と名付けられた施設では、キャンプやバーベキューなどの河川敷でのアウトドア体験のほか、SUP(スタンドアップパドルボード)や水上自転車などのさまざまな水辺アクティビティを満喫することができます。
また、ロッカーやシャワー、福井の美味しい食材を使った手作りのおむすびやコーヒー、ビールなどのドリンクが楽しめるカフェなどの機能も備わっています。
そのヨリバで、水上アクティビティ部門を担当する田中さん。「まずは福井に住む人たちに、足羽川に愛着を持ってもらえるきっかけとなるような施設にしていきたい。さらには、北陸新幹線などで県外からくる人たちにも足を運んでもらいたい」。中心市街地に緑あふれる川があり、さらにその川でSUPや水上自転車を楽しむ人がいる、このような景色を県外客にもぜひ味わってもらいたいと田中さんは熱く語ります。
「ヨリバ近くの足羽川沿いには、民家やオフィスなどが立ち並んでいるから、暮らしや生活が間近に感じられる。ツアー運営時などには、マンションから手を振ってくれる人もいて、『市民と一体で楽しめる』のが足羽川の最大の魅力」。
川は楽しさをもたらしてくれる一方で、重大な事故につながる危険性も潜んでいます。想像以上に流れが速く複雑だったり、深く、冷たかったり。穏やかできらきらと輝く見た目に油断すると、命を落とすことにつながりかねません。
そのため、川遊びには危険性が伴うことを理解し、正しい知識を身に付けることが大切です。ヨリバでは、田中さんを含む水上アクティビティ運営スタッフ全員が、国の認定を受けた川の指導者育成機関である「(特非)川に学ぶ体験活動協議会(通称:RAC)」が発行する「川の指導者」資格を持ち、ツアー運営や指導に当たってくれます。
高校生のころ、「RACリーダー」の資格を取得して以降、「川の指導者」として川と関わってきた田中さん。現在では、SUPやキャニオニング(沢下り)、水上自転車などの水辺アクティビティツアーの運営のほか、県内各地を飛び回り、幼児から大学生までを対象とした、川の安全体験を企画・開催しています。
川に学ぶ社会を広めるためにRACが毎年開催している全国大会が、昨年福井県で行われました。そこでは、川で起こる事故や課題の解決に向け、福井の水辺や歴史の魅力を発信する「体験型の見学会」などが行われ、全国各地から100人を超える川のエキスパートらが集まる中、田中さんは総合司会を務めました。
田中さんは普段、越前市にある(一社)環境文化研究所の研究員として、川や公園などの自然を生かしたまちづくりを実践する仕事をしています。
(一社)環境文化研究所では、水辺の安全講座や防災訓練を開催したり、ゲーム感覚で楽しく遊びながら自然の大切さを学ぶプログラムを企画したりなど、世代や性別を問わずさまざまな人たちに、「体験」を軸とした啓発や教育を展開しています。
田中さんが川の魅力や楽しさに夢中になり、川に関わる今の仕事を選んだ背景には、父をはじめ、田中さんが川で遊んでいた際に面倒を見てくれていた「RACリーダー」の人たちの存在がありました。
幼少期のころから、父や「RACリーダー」、イベントを訪れる人たちと一緒に川に親しんできた田中さん。川遊びなどの「川体験」を通じて、多く経験を積み上げてきたことで、「自然を体験すること」が子どもの教育にも重要であることに気付きます。
「さまざまな世代の人たちに『川の安全な楽しみ方』を伝えていきたい」という思いが、田中さんを自然と今の仕事に導いていました。「私にとって川の指導者資格の取得は、みんなが自動車の運転免許を取るような感覚だった」と、当時を笑顔で振り返ります。
ツアー運営でまちのにぎわいを考えたり、安全講座を通じて子どもたちの教育に携わったり、これら全てに共通するのが「体験すること」の大切さを伝えたいという思い。田中さんは、「ただ川を眺めたり、岸に転がる石を手に取りじっくり観察するだけでも、貴重な『川体験』としてその人の心にしっかりと残り続ける」と言います。
「自然体験では、自ら考え、行動し、学習する力が身に付く。私も『子どもたちと一緒に学んでいる』という気持ちを常に忘れないよう意識している」と話す田中さん。子どもたちが発見したことや疑問に思ったこと、興味を持ったことなどを共感し、それを波紋のようにほかの子どもたちにも広げていけるよう心掛けていると言います。
川は、人間が生きていく上で欠かせない「水」を供給する重要な役割を担っています。学校などで「川は危ないから行ってはいけない」と教えられて育つことで、川への関心を失い、そうした川の重要性や川が楽しめる場所であるということに気付いていない人が多い。それではもったいないと、田中さんは言います。
「『危ないから行かない』で終わらせるのではなく、川のどの部分が危険なのか、どのようにすれば安全に楽しめるかなどの視点から、川と付き合っていくことが重要」だと話します。
川を安全に楽しむために、何よりも大事なのが「ライフジャケットの着用」。実は、「カナヅチ」で泳ぐことが苦手な田中さんは、仕事を通じて、ライフジャケットの重要性を誰よりも身近に感じていると言います。
「ライフジャケットは、車で例えるならシートベルト。子どもたちだけでなく、川に入る全ての人が着用すべきもの。『楽しい』と背中合わせにあるのは『危険性』であることをしっかりと理解した上で川を楽しんでほしい」と、話に熱が入ります。
足羽川の新しいレジャースポット「ヨリバ」が完成し、福井市でも川を生かしたまちづくりに注目が集まる今、田中さんは、川に寄り添うまちづくりをよりいっそう盛り上げていきたいと話します。「福井には、自分のような若い女性の川の指導者が少ない。今後は、自らを広告塔とした川の魅力発信にもいっそう注力していきたい」と熱く語ります。
「自然は、自分の中のワクワクや好奇心などを引き出してくれる。静かに眺めてほっとしたり、童心に帰って思い切り遊んだり、川には一人一人に合った楽しみ方があると思う。足羽川を中心に、川と市民の生活がより密接になれば」と、未来の福井市を思いながら力強く話してくれました。