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「福いいナー!をさがせ!」#06 姉崎花香さん

 福いいネ!くんの相棒「福いいヌ!」は、福いいネ!なニオイが大好き。その鋭い嗅覚で、福井のまちにあふれる福いいネ!を探し出すのが大得意です。

 福井には、思わず「福いいネ!」と声を上げたくなるような、すばらしい人たちがたくさんいます。みんな知ってる著名人だけでなく、中には、知る人ぞ知る逸材も!
 そこで、福いいヌ!の鼻を頼りに、福井でがんばっている人、活躍している人を探し出し、皆さんに紹介していく新企画を始めました。題して、福いいナー!(=福いいネ!な人)をさがせ!

 第六回は、姉崎花香(かこう)さんを紹介します。 

#06 姉崎花香さん

 明治の初めに福井で生まれ、現代まで受け継がれている華道・茶道(生け花・煎茶)の流派「文房流(ぶんぽうりゅう)」。福井を発祥とする唯一の流派として、全国に広がり発展し続ける「福井ブランド」です。

 「文房流」という名は、明治時代の文人(文学・芸術に通じた知識人)たちが、勉学の合間に、庭に咲く花を摘んで生け、茶を煎じて飲みながら、愛用する文房具を片手に歓談する習慣や文化があったことに由来します。そのため、文房流では、華道と茶道の両方が分かちがたく結びつき、重んじられています。

 そんな明治時代から続く文房流を長年にわたり支えてきた姉崎花香さんは、92歳の今もなお、自宅で週に2回の教室を開き、多くの門下生や高校生に生け花や煎茶の魅力や作法を教え続けている、福井を代表する華道・茶道家です。

 現在では、福井市文化協会の顧問を務める傍ら、主として生け花の指導に当たっている花香さん。平成30年度に「福井県文化賞」、令和4年度に「福井県政功労知事表彰」を受賞するなど、その功績は幅広く認知され、福井でお花やお茶を志す多くの人たちから慕われています。

初代 姉崎素山
自宅で多くの弟子たちに囲まれながら生け花を教える花香さん
木々や花に対する文房流の考え方が、今の自分を形成していると話す花香さん(写真左)。隣には、花香さんの義理の姉に当たる姉崎素心さん(右)

 福井で生まれた流派「文房流」をさらに発展させるため、昭和時代、初代姉崎素山(そざん)さんが「文房流晴心会」を発足。現在では、福井で最も多い会員数を誇る大規模な流派へと発展しました。その背景には、長年にわたり会を根底から支え、福井の地に華道・茶道文化を根付かせてきた花香さんの精力的な活動と、花を生けること、木々や花に対する特別な思いがあります。

 「文房流晴心会の生け花の特徴は、花や草木の持つ自然の美しさを生かすこと。華道では、流派ごとに『型』が決められているのが一般的だが、うちの流派はそれが存在しない。花や草木の『ありのまま』を最大限に生かす『自由』を重んじる。木々の枝ぶりも、まるで初めからそこにあったかのように、造り込みすぎず、花にストレスを与えることなく自由に生ける。枝が曲がっていれば、それが自然の道理。自分たちが考える美しさを表現するために、自分たちの手で勝手に伸ばしたりしない」

 そんな「当たり前」を重んじる流派だからこそ、現在も多くの人たちから愛され親しまれていると言います。  

 こうした花香さんの考え方には、実の父である初代素山さんの教えが大きく影響しています。「父が残した『花の意思をば先に』という考えが、生け花を始めた80年以上前からずっと心に刻まれている。花を生ける者は皆、まず初めに花の気持ちを聞かなければならない。そうすることで、花も自分たちの考えに応えてくれる。木々や花が育ってきた背景を思いながら、それぞれの『持ち味』を生かすことを最も大切にしている」 

花香さん(左)と素心さん(右)。60年以上の付き合いになるが、一度もけんかしたことがないほど仲良しな2人は、互いの本名から「さっちゃん」「みよこちゃん」と呼び合う

 花香さんの活動の傍らには、60年以上にわたりベストパートナーであり続け、花香さんと共に、献身的に会を支えてきた、姉崎素心(そしん)さんの存在がありました。

 二代目姉崎素山さんの妻で、花香さんの義理の姉に当たる素心さんは、22歳で結婚したことを機に姉崎家に入り、本格的な華道・茶道の道へと足を踏み入れました。88歳になる今でも、花香さんと協力し、助け合いながら、多くの会員たちに生け花の魅力や煎茶の作法を教えています。

養浩館庭園で開かれた「春のお茶席」で、茶を入れる門下生を優しく見守る素心さん

 文房流晴心会で、生け花を中心に教える花香さんに対し、素心さんは、主に煎茶の作法や流儀を教えています。「茶葉の量、お湯の温度、客へお茶を出すタイミングなど、さまざまな要素が絶妙に絡み合うことで、おいしい煎茶をお出しすることができる。相手の気持ちを考え、丹精込めて入れたお茶を『おいしい』と言ってもらえたときは、この上ない喜びを感じる」と言います。

 毎年、養浩館庭園で開かれている「春のお茶席」では、市内の茶道の各流派が集まる中、文房流晴心会からは素心さんが参加。訪れる多くの人たちに、文房流の煎茶の魅力を届けています。

 お茶の魅力を広める活動を通じて、養浩館庭園の来園者をもてなしてきた素心さんですが、華道と茶道の両方を一体的に学ぶ「文房流」を支えてきた経験から、養浩館庭園の床の間に花を生け続ける活動にも、長年力を入れてきました。実に、10年間で約1000杯もの花を生けてきたといいます。

 「福井の文化を代表する養浩館庭園を彩る花を生け続けてきたことで、来園者に声をかけてもらったり、これまで出会うことのなかった人たちとのコミュニケーションが生まれたりと、貴重な経験をすることができた。現在では、後継となる若手が頑張ってくれている。引き続き、福井の文化を彩っていけるよう近くから見守っていきたい」

弟子とのコミュニケーションも生け花の最大の魅力だと話す花香さん。一人一人の意見や質問にしっかりと耳を傾け、丁寧な対話を意識している
毎年県外から足を運んでいるという花香さんと素心さんのファンの人たち

 文房流晴心会では、華道・茶道の魅力を広く伝えるため、毎年、会員が生けた花を展示するイベントを開催しています。今年も、9/15(日)、16(月祝)の2日間、佐佳枝廼社(さかえのやしろ)で「秋季華展2024」が開催され、来場者には、会員が入れた煎茶と季節の和菓子も振る舞われました。

 2日間で約700人が来場した今年の華展では、花香さんと素心さんを訪ね、全国各地から多くの「文房流」ファンが足を運びました。「華道・茶道の魅力の一つは、さまざまな人たちとの交流が深まること。弟子とのコミュニケーションも楽しいが、年に数回開催する華展に、県外から足を運んでくださる人たちとの継続的な関係性を通じて、花を生けることの楽しさをより実感している。今後も、私たちが作るさまざまな作品を通じて、多くの人たちに生け花の楽しさを伝えていきたい」

 「約60年という長い間、文房流の発展に力を注ぐことができているのは、多くの弟子たちの支えがあってこそ」と話す2人。これまで、弟子をはじめ多くの人たちとの交流、関わりを大切にしてきました。

 「生け花やお茶を通じて多くの弟子たちに恵まれ、毎日を楽しく過ごせている。弟子の中には、40年以上関係性が続いている人も少なくない。私たちにとっての幸せは、経済的に満たされることではない。これまでの活動で得られた人間関係そのものが私たちの幸せであり、大きな財産でもある」と笑顔で語ります。

 また、華道文化の継承・発展のため、60年以上前から福井県立藤島高校の生徒に生け花を教え続けている花香さん。高校生の主体性や自由度を損ねることなく、「生け花って楽しい」と感じてもらえるような指導を心掛けていると話します。

 「教え子の生徒たちは、いつどんなときでも自主性を大切にしている。だからこそ、生徒たちが作り上げた作品に対して、まずは肯定して受け入れる。その上で、花を生ける楽しさや、花を見て奇麗だと思える心を持つ大切さを教えている。文房流晴心会が重んじる『自由』が、今の高校生たちに合った考え方であることを、毎回の活動・指導を通じて学ばせてもらっている」

 一方で、「自由」という形のないものを教えることは極めて難しいことだと話します。「『自由』の捉え方は人それぞれ。生徒たちが生けた花を見ると、その子がどんな気持ちで生けたのか、何を考えているのかが分かる。その子が考える『自由』とは何かを、その子が生けた花を通じて理解することで、一人一人に合った指導ができる。今後も、生徒たちの『自由』を具現化させるため、互いにコミュニケーションを大切にしていきたい」

素心さんの息子に当たる三代目素山さん(左)と花香さん(右)の作品

 文房流晴心会を築いた姉崎家に生まれ、約80年にもわたり花を生け続け、多くの人たちを魅了してきた花香さん。今後も引き続き、生け花の楽しさ、魅力を伝えていきたいと力強く話します。

 「生け花の最大の魅力は、美しいものを素直に美しいと感じられる心を養えること。そして、花を生けることを通して、さまざまな人や花との出会いが生まれ、その過程の中で自分自身が成長できること。花も人間も、生まれ育った『ありのまま』の姿が一番美しい。生け花は、私の人生そのものです」

 福井の地に生まれた華道・茶道文化を受け継ぎ、現代までけん引し続けてきたリーダーが、今もなお福井を盛り上げ、支えています。皆さんも、これを機会に、気軽に参加できるお茶会やお花の教室に足を運んでみてはいかがでしょうか。福井を発祥とする唯一の流派「文房流」の魅力を肌で感じることで、きっと、これまで以上に福井の文化を味わうことができるでしょう。

「福いいナー!をさがせ!」は動画でもご覧いただけます