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「福いいナー!をさがせ!」#04 髙橋政則さん

 福いいネ!くんの相棒「福いいヌ!」は、福いいネ!なニオイが大好き。その鋭い嗅覚で、福井のまちにあふれる福いいネ!を探し出すのが大得意です。

 福井には、思わず「福いいネ!」と声を上げたくなるような、すばらしい人たちがたくさんいます。みんな知ってる著名人だけでなく、中には、知る人ぞ知る逸材も!
 そこで、福いいヌ!の鼻を頼りに、福井でがんばっている人、活躍している人を探し出し、皆さんに紹介していく新企画を始めました。題して、福いいナー!(=福いいネ!な人)をさがせ!

 第四回は、髙橋政則さんを紹介します。

#04 髙橋政則さん

 有限会社タカハシ看板会長の髙橋政則さんは、主に屋外に設置される広告看板を製作する「広告美術仕上げ」に携わること67年のベテランです。

 平成9年度に「福井市技能功労者」として表彰されたのを皮切りに、平成10年度に「福井県技能顕彰」、平成20年度に「全技連マイスター」認定、平成23年度「現代の名工卓越した技能者」厚生労働大臣賞、平成24年度に黄綬褒章と、数々の認定や賞を受け、平成29年には「ものづくりマイスター 広告美術仕上げ 厚生労働省認定」を受けました。

 髙橋さんが広告美術仕上げの道を志したのは、パソコンなどが普及する以前、手描きが当たり前の時代でした。 
 現在の広告看板の製作は、パソコンでデザインしたものをインクジェットシートに印刷する方法や、フィルムシートから文字やイラストを切り出す方法がよく用いられます。

 髙橋さんが看板製作を始めるきっかけとなったのは、中学時代に、バスの側面に直接文字を書いている職人の様子を見かけたことでした。「車体の広告が人の手によって直に描かれたものだとは知らなかった」と広告美術の仕事に一気に興味を持ったと言います。
 もともと、絵や文字を描くのが好きだった髙橋さん。昭和33年、中学を卒業した15歳のとき、福井市内の老舗看板業者に就職しました。

 期待を胸に看板製作の第一歩を踏み出した髙橋さんでしたが、最初はなかなか描く機会を与えられなかったそうです。「職人の世界だから、先輩が技術を教えてくれるなんてことはなかった。だから、先輩のやり方を見よう見まねだったり、先輩が捨てた失敗作をごみ箱から取ってきたりしながら、夜遅くまでたくさんの絵や文字をひたすら描き続けたよ」

 そんな努力が実り、親方から「これだけ描いているのなら、実際に看板を描いてみろ」と言われてようやく描かせてもらえたのが、当時人気だった双子の歌手「こまどり姉妹」が出演する映画の看板。昭和34年ごろのことだそうです。
 当時映画は、市民にとって一番の娯楽。多い時で10館以上の映画館が市内で営業していました。映画館の欄間に掲げられた看板は、映画の宣伝には欠かせないもの。髙橋さんたちのような看板業者は、映画のポスターを見ながら、どうすればその映画の面白さが道行く人に伝わるか、日々悩みながら看板を仕上げていったそうです。「手描きだと、役者の特徴を引き出したり、いろいろとアレンジができるから、味がある。それが手描きの良さ。写真そのままだと、やはり味気ない」と髙橋さんは語ります。

髙橋さんが描いた映画看板の数々

 映画の看板のほかにも、ふくいまつり(現在の福井フェニックスまつり)の広告カーニバルの宣伝装飾車や、企業の事務所の看板などを次々と手がけていきます。
 広告カーニバルとは、ふくいまつりの催しの一つで、第2回ふくいまつりから開催されていました。デコレーションされた車両が市内を練り歩く様子は壮観で、人気を博していました。

髙橋さんが文字と石垣を書いた宣伝装飾車
会社の事務室の壁には、髙橋さんが描いた数々の絵が飾られている

 現在でも、髙橋さんの手描きの看板や文字に惹かれ、注文する人は絶えません。
 「特に最近は手描きが珍しい。福井で手描きの看板を製作するところは少ないのではないかな。だから、いろいろなところからお願いされる。ありがたいことだ。ほかの看板業者から『代わりに書いてくれ』と言われることもある」と語る髙橋さん。

 近年よく発注を受けるのは、選挙事務所に掲示する「檄文(げきぶん)」です。
 「檄文」とは、選挙の事務所開きや出陣式に合わせて、応援・激励の思いを込めて支援者から贈られるポスターです。
 実際に選挙事務所を訪れた際や、選挙報道などを見た際に、選挙事務所の壁などに所狭しと貼られているのを見たことがある人も多いと思います。選挙活動では公式に認められたポスターしか使用することができないため、さまざまな人が出入りする事務所に掲げられるのです。
 全国的には、文字だけだったり、送り主の顔写真が入っていたりするものがよく見られ、実際に政党本部などから送られるものは、比較的大人しめで印刷されたものばかりですが、髙橋さんは一枚一枚手描きで迫力あるものを製作しています。

檄文の数々。題材が同じでも、表現が異なるものもある

 急な要望にも対応できるように「前もってたくさん準備しておくんや」といって見せてくれたのは、まとめて保管された檄文の数々。これに宛名や送り主の名前を書いて、選挙事務所に掲示されることになります。

束にして保管されている檄文

 絵によってはこんな工夫もされています。「目に金色のシールを貼るんだよ。これに室内の照明が当たると、光ってかっこいい」1枚1枚細部にまでこだわっています。

目に金のシールをあしらった竜

 髙橋さんが、実際に絵を描いているところを見せてくれました。
 うっすら下書きが描かれたトラに、少しずつ色の調合を変えながら、次々に色が塗られていきます。「この色にこの色を混ぜると、どんな色ができるか、実際にやってみなくても分かるんだよ」と髙橋さんは話します。
 「動物の絵でも、人間の絵でも、やっぱり目が大事。目をしっかり描くことで、はじめて実物に似てくる。絵に命が宿る」そう話す髙橋さん。その筆さばきに迷いはありません。

左の写真を参考にしながらトラを描いていく
真剣な表情で筆を走らせる髙橋さん

 現在は、コンピューター上でデザインされた書体を用いることが一般的ですが、髙橋さんはもちろん文字も手書きです。髙橋さん自らが作成した手書きの文字のサンプルを見せてくれました。看板や表札を書くのに、お客さんにこのサンプルを見せて、好みの書体を選んでもらって書くのだそう。書体の数は数知れず。目移りして、選べなくなってしまいそうです。

文字のサンプルを見せてくれる髙橋さん

 絵も字も得意な髙橋さん。「二刀流。野球の大谷翔平選手みたいだね」と笑います。

 髙橋さんはこれまで福井県産業会館やサンドーム福井などで開催される各種の催しで、作品の展示だけでなく実演も交えながらその技術を披露してきました。
 イベントなどの実演の際に、髙橋さんが皆さんに特に見てほしいと思うのは、絵を描く順番。「人間や動物は、顔や目から描いていく。新幹線なんかだと背景を先に描いて車両を後に描くと、絵が浮き上がって見える」

平成28年9月にサンドーム福井で行われた「越前モノづくりフェスタ2016」の様子

 コロナ禍までは、文字を書くレタリングの技術を生かして、会社の一角でペン字の教室も行ってきました。あわら市から通っていた人もいたそうです。

ペン字教室の様子

 また、地元の和田公民館に毎年、ボランティアで干支の絵を描いて提供しています。作品は、公民館で展示されるほか、公民館だよりにも掲載され、地域の人たちから愛されています。

 公民館だよりは和田公民館のホームページからご覧いただけます。
和田公民館だより「和だっち」令和4年12月25日号
和田公民館だより「和だっち」令和5年12月25日号

 すでに社長職は息子の政行さんに引き継いでいます。政行さんは手描きではなくパソコン専門で、現在では、タカハシ看板の業務のほとんどがパソコンによって行われています。
 「息子は、大阪に修行に出てカーラッピングなどの技術も経験して、頑張って取り組んでくれている。会社をしっかり残していってほしいね」と話す髙橋さん。

 「自分がいなくなると、手描きで看板を描く人は少なくなるんじゃないか。パソコンで描く方が量産できるので、確かに便利ではあるけれど、手描きの方が題材の特徴を引き出すことができて良い。手描きも残していってほしい」と髙橋さんは語ります。
 82歳になった現在でも、絵を描くのが大好きで、毎日のように描き続けている髙橋さん。「絵を描いているときが一番幸せ。100歳までは頑張る」と話します。皆さん、髙橋さんの益々の活躍にご期待ください!

 10月には、ハピリンで開催されるイベント「ふくいの匠」(福井市主催)で、絵の実演を予定している髙橋さん。イベントの詳細が決定次第、福井市のホームページなどでお知らせします。ぜひお立ち寄りください。

 「福いいナー!を探せ!」は動画でもご覧いただけます。