「福いいナー!をさがせ!」#05 なないろてんとうむし
福いいネ!くんの相棒「福いいヌ!」は、福いいネ!なニオイが大好き。その鋭い嗅覚で、福井のまちにあふれる福いいネ!を探し出すのが大得意です。
福井には、思わず「福いいネ!」と声を上げたくなるような、すばらしい人たちがたくさんいます。みんな知ってる著名人だけでなく、中には、知る人ぞ知る逸材も!
そこで、福いいヌ!の鼻を頼りに、福井でがんばっている人、活躍している人を探し出し、皆さんに紹介していく新企画を始めました。題して、福いいナー!(=福いいネ!な人)をさがせ!
第五回は、「なないろてんとうむし」を紹介します。
福井市の麻生津地区を拠点に、子どもたちの居場所づくりや地域コミュニティの活性化に取り組んでいる人たちがいます。
団体の名は「なないろてんとうむし」ーーー太陽に向かって羽ばたくその姿から「天の使い」「幸運のシンボル」といわれるテントウムシにあやかって、また、七色の虹のようにさまざまな属性の人たちが集う場をつくりたいという思いを込めて、そう名付けたそうです。
メンバーは、民生委員・児童委員や福祉委員、地域のボランティアをはじめとする20数人。主な活動は、「こども食堂」の運営です。
こども食堂とは、子どもが無料または低価格で食事することのできる場所。子どもの貧困対策として、民間から発祥した自発的な取り組みで、現在、日本全国9000か所以上で開催されているといわれています。
なないろてんとうむしは、麻生津公民館などを会場として、月1~2回、第二日曜日などの昼食の時間帯に開催しています。子どもは無料、大人も100円で利用できます。
メニューはカレーライスなどの軽食が主。メンバーの中に管理栄養士がいて、年間メニューや材料は相談しながら決めます。毎回、具材やトッピング、デザートなどで変化をつけるようにしています。
持ち帰って家で食べられるよう、パンやインスタント麺などの食材をお土産に渡すこともあります。
また、季節に応じて、夏には流しそうめん、冬はクリスマス会、餅つきなどのイベントを行い、利用者たちの交流を促しています。
こども食堂の利用者というと、一日三食の食事にも困るような非常に貧しい家庭などをイメージする人もいるかもしれません。
しかし、なないろてんとうむしの発起人で代表である吉田智美さんは、それは狭い捉え方だと言います。「『貧困』という言葉には『貧しい』という意味と、『困っている』という二つの意味が含まれている」
経済的な貧しさだけでなく、病気や障がいを抱えていたり、虐待などの家庭内の問題があったり、さまざまな事情で困っていて、誰にも助けを求めることができない人たちがたくさんいます。そのような人たちの助けになることが、こども食堂の目指すべきところであると言います。
いつも通ってくる子どもたちの服装や身体に異変はないか、表情や発する言葉に不自然なところはないか気を配り、悩みや問題を抱えていないかこまめに声をかけるようにしています。
なないろてんとうむし発足のきっかけは、新型コロナ感染症の流行でした。
保育教諭である吉田さんは、普段、認定こども園で働く傍ら、民生委員・児童委員として地域を見守る活動も続けています。その中で、令和2年から流行し始めた新型コロナの影響により、地域のつながりが失われ、孤立する家庭や、一人で食事をする「孤食(こしょく)」が増えていることを肌で感じていたそうです。さらに令和4年には物価高騰の波が襲い、家計をひっ迫させました。
自分にできることを何かやらなければと、こども食堂の立ち上げを決意したそうです。
予想外だったのは、思いを周囲に伝えたところ「自分もやりたいと思っていた」「私も手伝わせてほしい」と、次々と賛同者たちが現れたことでした。
メンバーの1人で、東稱名寺(ひがししょうみょうじ)の副住職を務める辻森直邦さんは、「私もこども食堂の必要性を感じていたが、寺が主体となって活動を始めようとするとなかなか制約が多く、踏み出せずにいた」と当時を振り返ります。
東稱名寺は、現在の麻生津小学校ができる以前、地域の教育施設を担っていたこともある歴史ある寺院。現在も、子ども向けの行事を開催したり、放課後に遊び場として境内を開放したりするなど、地域の子どもたちへの福祉を大切な信条としています。
今年7月に行った流しそうめんイベントでは、東稱名寺が会場となり、普段の公民館では受け入れることのできない200人を超える人たちが参加しました。
なないろてんとうむしに、食材の提供などを通して支援を行っている株式会社サン食品。代表取締役社長の大村規晃さんは、「食品ロス問題への対処や地域貢献という観点から、こども食堂への食材提供は、会社としてまさに喫緊の課題だった」と言います。
全国のこども食堂リストを取り寄せるなど、事業開始を検討していたところに、タイミングよく、なないろてんとうむしからの相談があったと言います。吉田さんたちが相談に来たその日に、すぐに支援の話を決めました。
「わが社は、給食の流通などを担う会社で、黒子役となり縁の下から社会を支えるのが本分。社屋を構えている麻生津地区に住む皆さんを、これからも陰ながらサポートしていきたい」と語ります。
その他にも、地域の学校や医療機関、福祉団体に加え、全国規模のこども食堂に関連する支援ネットワークや慈善団体からの寄付など、活動を進めるごとに、さまざまなところから協力と応援を受けるようになってきているそうです。
「皆さんの理解と協力のおかげでやれている。本当にありがたい」と、吉田さんは目を細めます。
令和4年にこども食堂を始めた当初、30人ほどだった利用者は、現在では毎回100人を超える規模になっています。
口コミなどを通じて広がり、麻生津地区だけでなく、近隣の清明地区、文殊地区や越前市などから参加する人もいるそうです。子どもたちは、毎回の開催を楽しみにしている様子で、親子や三世代で参加する人たちもいます。
想像をはるかに超える盛況ぶりに、「やはりこうした取り組みが地域から求められていたのだ」と実感している吉田さん。しかしその反面、利用者がどんどん増えることで、スタッフ数の確保や会場の収容力など、課題は絶えません。
「現在、多くの人たちが参加してくれていて、とてもありがたい」としながらも、「本当に苦しんでいる子どもたちに、助けの手は届いているだろうか」と、常に自問しながら活動していると言います。
吉田さんには、貧困家庭という問題に対する特別な思いがあります。それは、吉田さん自身が早くに夫と死別し、シングルマザーとして4人の子どもをひとりで育ててきたという経験に根差しています。
「とても苦しかった。誰かに助けてほしいと思うこともたくさんあった。でも、その過程で、世の中には自分と同じように、いや、それ以上に辛い状況でがんばっている人たちがたくさんいるということを知った」
こども食堂の役割は、単に食事を提供して子どものお腹をいっぱいにするだけではありません。訪れる子どもたちと関係性を築くことで、見守りが必要な子どもや、支援の必要な家庭を早い段階で発見できる機会を増やし、手を差し伸べることが大事な目的です。
「実際に、どれくらい経済的に困っているのか、家の中でどのように過ごしているのか、外からはなかなか分からない」
「見えない貧困」や「孤立」が、本当に対処しなければならない厄介な問題であることを、吉田さんは身をもって知っています。
最近は、社会福祉協議会や学校などから、なないろてんとうむしの活動について話をしてほしいという依頼をもらうようになったそうです。赴いて話をすると、皆、熱心にノートを取りながら話を真剣に聞くそうで、「こども食堂という活動に対する関心が高まっていることが伝わってくる」と言います。
「今、福井市では10か所ほどのこども食堂が活動している。これがもっと他の地域にも広がってくれたら」と吉田さんは願います。
一人の人、一つの団体にできることは限られているかもしれません。しかし、それらは、困っている人たちにとって間違いなく大きな助けとなります。そして、できる人たちが、できる範囲で活動することで、それが積み重なり、社会全体を改善していきます。
「私たちの活動が、新しくこども食堂を始める人たちの参考として役に立ってくれたらうれしい。もし、始めようと思って迷っている人がいたら、なないろてんとうむしを見に来てくれてもいいし、私に相談してくれてもいい。同じ志の人たちを応援しています」と、頼もしい笑顔で話してくれました。
「福いいナー!をさがせ!」は動画でもご覧いただけます
今回は「西行市長がおじゃまします」とのコラボ企画です
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